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脳が創る現実

その“見えている世界”は、あなたの脳の作品かもしれない

 


「見ている世界」は、あなたの脳が先に決めていた?

「今、何が見えている?」と問われたとき、
私たちはつい「目に入ったものをそのまま見ている」と信じてしまいます。

しかし、最新の神経科学の研究は、こうした感覚を根底から覆し始めています。

 

大阪大学の高木優氏と東京大学の西本伸志氏のチームは、2023年、
fMRIと生成AI(ChatGPTの基盤となる技術)を組み合わせて、
脳活動から「見ている映像」を再構築するという驚くべき成果を発表しました。

この手法は、**Latent Diffusion Model(拡散型生成モデル)**を応用したもので、
脳内のぼんやりした信号から、驚くほど高精度な画像を再現しています。

ここで重要なのは、再現された画像が「実際に見たもの」と微妙に異なっていた点です。
つまり、脳は“記憶や予測”に基づいて、現実を補完していたのです。

これはまるで、動画の編集作業のようなもの。

映像に足りないフレームを、AIが勝手に“それっぽく”補って滑らかに見せる──
脳も同じように、現実をスムーズに「演出」しているのです。


わずか0.1秒の変化にも気づかない脳のトリック

 

さらに、同じ研究チームは、映像の中の一部を0.1秒だけ変化させる実験も行いました。

結果、多くの被験者がその変化にまったく気づかなかったのです。

なぜか?
脳は「変わっていないはず」と決めつけ、
予測どおりの映像を自動で“上書き”してしまったからです。

 

この現象は、**Predictive Coding(予測符号化理論)**と呼ばれ、
現代の脳科学の中核をなす概念の一つです。

脳は“先に予測して、あとから修正する”ことで、
情報処理のコストを劇的に減らしているのです。

たとえば、日常の会話でも「え、今なんて言った?」と聞き返さなくても、
相手の言葉の続きを脳が予測して補っていることがありますよね。

これも、同じ脳の予測メカニズムです。

 


Spacecogモデルが示す「空間はざっくり把握する」

 

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の**Burkhardt, M.**らの研究チームは、2023年に
Spacecog(スペースコグ)という大規模神経モデルを提案しました。


このモデルは、人間が実際に見えていない背後の空間まで含めて
「全体を把握している」と感じる仕組み
を説明しています。

 

例えるなら、それは舞台裏を見ずとも「演劇の全容」を理解できる感覚に似ています。

私たちは、全方向から情報を得ているわけではなく、
必要最小限の情報を元に、脳が空間の全体像を生成しているのです。


仮想現実と現実の境界は驚くほど薄い

 

MITとUCLの合同研究(2024年、**Makin, T. R.**ら)は、
人がVR(仮想現実)に没入したとき、
数分でその世界を“現実”として認識し始めることを証明しました。

 

上下逆さまに見えるメガネをかけて生活する「逆転視実験」では、
数日で脳が完全にその世界に適応し、
逆さまの世界が“普通”になることがわかっています。

 

Spread Oneに初めて訪れたお客様が「時間の感覚がなくなる」と口にするのは、
この「現実の再構築」が行われている証かもしれません。

照明、音、空気感──すべてが普段とは違う環境だからこそ、
脳はそれを“新しい現実”として受け入れているのです。

 


錯視は脳の“親切なエラー”

 

インディアナ大学のSundararajan, J.による2023年の研究では、
ディープラーニングモデルが錯視画像を再現しようとしたときに起こす誤差
が、
まさに人間の脳と同じ構造的エラーであることが示されました。

 

例えば、回ってもいない静止画像が「グルグル動いて見える」錯視。

これは、脳が過去の動きの経験をもとに、
「このパターンは動くだろう」と予測してしまうからです。

例えるなら、駅のホームで見える電車の“残像”のようなもの。
視覚は正確というより、“親切な予測”によって成り立っているのです。

 


見えないものを見る脳の力

 

人間の目は赤外線や紫外線を見ることはできません。

しかし、サセックス大学のRoseboom, W.らの研究(2024年)では、
脳は環境の微細な変化から直接見えていない情報を「ある」と判断する能力

持つことが示されました。

 

たとえば、晴れているのに「日焼けしそう」と感じたり、
冷蔵庫の中身を見なくても「中が冷たい」と感じるのも、
こうした「間接認識」の一例です。

 


注意を向けたものが“大きく見える”脳のシステム

 

ニューヨーク大学の**Carrasco, M.Yeshurun, Y.**の研究は、
スポーツ選手が「ボールが大きく見える」と感じるのは、
実際に脳の処理解像度が上がっているから
だと明かしました。

 

つまり、注意を向けた対象は「より詳細に」「より現実らしく」脳に処理されるのです。

Spread Oneで催眠体験をした方が「自分の手が重くなった」と感じるのも、
その感覚に集中することで脳がその対象を**“現実として強化”している**結果です。

 


時間の流れは、脳が決めている

 

新しい環境にいるとき、「1分が長く感じる」ことはありませんか?
それは、脳がいつもより大量の視覚情報を処理しているためです。

 

逆に、慣れた日常では情報をざっくり処理するため、
時間は「早く過ぎたように」感じられます。

これは時間知覚の情報密度仮説と呼ばれ、現代の時間認識研究の主軸になっています。


あなたの現実は、あなたの“脳の編集作品”

 

脳はただの受信機ではありません。

むしろ、過去の記憶・現在の予測・注意・感覚統合を駆使して、
「あなたにとって最も意味のある世界」をリアルタイムで創り出しているのです。

 

Spread Oneで感じる「非日常感」や「時間のゆがみ」、
それは決して幻想ではありません。

あなたの脳が、環境を“再編集”している瞬間なのです。

 

世界は、見えた通りに存在するのではなく、
あなたが「見たい」と思ったものが、最初に存在する

今この瞬間も、あなたの脳が見ている“現実”は、
あなたの人生で最もクリエイティブな作品かもしれません。